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2009.06

 
千の風―返歌

私の誕生を祝わないで下さい
私はいま生まれたのではありません
母のお腹の中で夢を見ていたのです
その前は千の風として
千の風として
この大地の上を吹き抜けていたのです

あるときは乾いた砂漠の土の上を
緑あふれる樹々の間を
荒れ狂った大海原を
あるときは人々でごった返す市場の路地を
秘めやかな夜のしじまを
吹き抜けていたのです

千の風は今、ひとつの身体に結晶しました
大きな満月の光に照らされて、
手足を伸ばそうとしています
千の風だった私が
あの月まで往けるのかどうか
今はまだ分かりません

だから、私の誕生を祝わないで下さい
これが祝福なのかどうか、まだ分からないのです
千の風だった私が
千の風だった私が
今度こそあの月の光とひとつになれるまで
じっと見守っていて下さい■

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