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2012.10

 
お金に代わるもの

15年くらい前のこと、故津末玄夫氏からこういう話を聞きました。
(氏は生物学者であり、在家の仏教者でもありました。[コラム平成22年5月号])
「今は何でもお金、お金の時代ですが、やがて変わってゆくでしょう。」
「どういう風にですか。」
と尋ねますと、その答えがこうです。
「お金を沢山もっている人が豊か、という時代は終わります。人からたくさん感謝される人の方が豊か、という価値観に変わってゆくでしょう。お金は次第に意味を失ってゆく…。」
「はあ…」
「それもずっと先の話ではなくて、2010年を過ぎた頃からそうなっていくでしょう。」
「本当ですか。…そうなると、いいですね。」
と言葉を返しながらも、私の中には大きな「?」が浮かんでいました。そもそも「感謝」はお金のように流動性もないし数値化もできないでしょう。感謝の貯金というわけにもいかない。感謝を財布に入れて買い物に行けるのだろうか…。
当時は冗談半分に受け取って聞き流していたのですが…最近私の中ですこし様子が変わってきました。
お寺を通じて色々な方に出会います。病気になられたり、介護が必要になったりという方もおられます。その中に、ご家族やご家族以外の方々からも本当に大切にされる人がいる。たとえ困った状況に陥っても、周囲の方々が放っておかないわけです。どういう人がそうなるのかといえば、若い時分に自分のことを二の次にして社会や周囲のために身を捧げてきた方です。別に見返りを求めて社会に尽くしてこられたわけではないでしょうが、自然とそうなってゆく。なるほど、老後は、資産に頼って生きている人がかえって心貧しき生活を送り、お金はなくとも自ら心を開き、人からも感謝される人の方が豊かに老いを生きる、ということも充分あり得ます。

「お金」がなくなることはないでしょうが、「感謝」の方が上位にくる時代がすぐそこまできている―資本主義の円熟した先は共産主義ではなく感謝主義?…なかなか刺激的な話ではありませんか。◆

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