宗教団体が宗教活動をする上で、法人格を取得する必要があるのでしょうか。
いいえ、そのようなことはありません。法人格を取得しなくても、宗教活動はできます。
では、なぜ法人格を取得するのでしょうか。
今日の日本社会にあっては、法人格を取得することによって、多くのメリットが生じるからです。
- 公益法人と認められることによって、社会的信頼性を増すことができる。
例:当庵の場合、法人格を取得することによってようやく多摩市仏教会に加入することができました。また非法人ですと、銀行口座も代表者個人名義でしか開けません。
- 税法上の優遇措置を受けられる。
宗教法人でなくても、宗教活動収入について非課税措置を受けることは可能です。が、固定資産税・都市計画税については、土地建物所有者が個人名義であるため、課税されることになります。ちなみに林海庵の場合、固定資産税・都市計画税の課税額は年間20万円程度。法人格を取得することによって、寺院の支出会計からこの分が節約できることになります。(5年間で約100万円に達します)
- 礼拝施設が法的に保護される。
寺院の中心は、ご本尊と本堂です。法人格を取得していないと、これらは個人財産ということになります。日常の宗教活動においては、それらが個人に所属していようが法人に所属していようが関係ないようにみえます。たしかに当面は問題ないのですが、たとえば住職が次の代に引き継がれるときに、ご本尊や本堂が個人財産であると、相続や贈与等の問題が生じます。公益的な宗教活動が維持継続されてゆくためには、それら礼拝施設が個人所有ではなく、法人所有であることが望ましいのです。
法人格を取得できる条件は
- 宗教法人法第2条に定められた宗教団体であることが必要です。
第2条:
「この法律において『宗教団体』とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする以下に掲げる団体をいう。
一 礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これに類する団体
二 前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これに類する団体」
- 宗教法人法第12条に定める手続きにより、所轄庁(都道府県知事、ただし他の都道府県内にも境内建物を備える場合は、文部科学大臣が所轄庁となる)で規則の認証を受けなければなりません。
第12条:
「宗教法人を設立しようとする者は、以下に掲げる事項を記載した規則を作成し、その規則について所轄庁の認証を受けなければならない。
一 目的
(林海庵の規則においては、「この法人は、阿弥陀仏を本尊とし、浄土三部経を所依の経典として、浄土宗祖法然上人の立教開宗の精神を体し、浄土宗宗綱に掲げる教旨をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成することを目的とし、その他この法人の目的を達成するための業務を行う」と定めています)
二 名称
(当庵においては「林海庵」)
三 事業所の所在地
四 設立しようとする宗教法人を包括する宗教団体がある場合には、その名称及び宗教法人非宗教法人の別
(当庵においては宗教法人「浄土宗」)
五 代表役員、責任役員、代務者、仮代表役員及び仮責任役員の呼称、資格及び任免並びに代表役員についてはその任期及び職務権限、責任役員についてはその員数、任期及び職務権限、代務者についてはその職務権限に関する事項。」
…以下省略いたしますが、第12条第1項は第13号まで、以下第3項まで定めがあります。詳しくは宗教法人法をご覧下さい。
宗教法人格を取得するにあたっての準備
規則認証申請に先立ち、所轄庁に事前相談をする必要があります。東京都の場合、少なくとも3年間の事前相談期間が必要です。また包括宗教団体の承認も必要となるので、そちらにも事前相談をしておく必要があります(浄土宗の場合は総務局担当)。
ちなみに所轄庁の事前相談で聞かれる内容、または提出書類は次の通りです。
ア その宗教団体の由緒、沿革(いわれ、創始年月日、創始の場所、創始者、主な変遷)
イ 主神・本尊
ウ 教義の大要
エ 施設の概要(境内地、境内建物及びその他施設の登記簿、図面等)
オ 教勢(信者数、教師数、布教所数等)
カ 儀式行事の概要
キ 過去3年間程度の活動実績(パンフレット、写真等)
ク 過去3年間程度の財政状況(収支予算、決算書及び財産目録等)
ケ 団体の運営に関する規約及び過去3年間程度の役員会の議事録
…ということは、前提として、過去3年間にわたって、
- 実体ある宗教活動を行っており、一定数の信者がいる。宗教活動を行ってきたことを示すパンフレットや写真等の資料が存する。
- 役員会を組織して、活動上重要なことは役員会において決議し、かつ議事録を備えている。
- 寺院会計を行っている。
ことが必要であり、さらに自己名義の宗教施設を有していなければなりません。
当庵の場合、過去3年間の実績(活動、役員会、会計)はありましたが、賃貸の施設による活動であったため、多摩市に土地建物を取得したことにより、初めて宗教法人格取得の条件がそろったことになります。
加えて、法人格取得にあたっては「宗教活動の永続性」が重視されますので、自己名義の宗教施設があるだけでなく、会計上負債を抱えていないか、もしくは負債があっても近々に返済を完了できることが前提となります。
(あらかじめ自己所有の土地建物があって、そこで宗教活動を始めた場合や、信者さんから土地建物の寄進を受けたような場合は別として、当庵のようにまったくのゼロから活動をスタートさせた場合は、土地建物の取得を借入金に頼らざるを得ません。これをどの程度返済しているかが重要なポイントとなるわけです。)